予知する女
君は。
「雨の境を見た事があるか」
私は 雨を予知できる。
どんなに晴れていても。
後 どれくらいで 雨が来るのかまで 正確に。
天気予報は関係ない。
出身は愛媛の田舎だ。
空気は新鮮、自然は雄大で
自分が如何に小さいかを 心地よく痛感する。
飛行機に乗った時の感想と似ている。
地元にいた頃は釣りに行くのが
有意義な気分転換だった。
海釣りは 朝3時に起きて早々に出る。
百戦錬磨の釣り人の
「お嬢ちゃんで釣れんのかぁ?」を横目に
ぎゃふん と言わそうと張り切っていた。
全然釣れない時は 奥の手がある。
鯛の養殖場 の近くに陣取るのだ。
少々ズルいが 逃げた鯛 に有付ける。
が。一番好きなのは川釣りだ。
釣り上げた 鮎 や ヤマメ を
川辺で そのまま焼いて頂く。
そうしていると 分かるようになる。
雲の形や速さ、空気の温度 で予想できる。
5分後に あの雲がここに 通り雨 を降らす。と。
眼前の水面 に 雨跡で 一本の線が出来る。
そのラインを境に 左は降っていて 右は晴れている
曇りと雨ではない。晴れと雨の境だ。
最高の瞬間だった。
都会に出て随分立つ。
いつの頃からか 雨を予知できなくなった。
空を見て 自然を感じる事が 無くなったからだ。
今日も きっと 洗濯物が濡れている。
何かで落ち込んだ時には 雨の境 を思い出す。
心に 雨と晴れの境目 を探すのだ。
今日は何に凹んだんだっけ。
あ。そうそう。
魚売り場で店員さんが 目当ての魚に
30%オフのシールを貼るまで 粘っていたのに
「これには貼りませんよ」
と白い目で一瞥されたんだった。
「ちぇ」
都会の雨は冷たい。